修善寺で芸者屋の一人娘として育てられた房子の家は、母も祖母も芸者上りで、母は彼女をおいて情夫と駈落ちした。ある日その母を未練がましく追う父の繁雄を激しく責める祖母おつたの口から房子は意外のことを聞いた。「房子だって誰の子か判りやしない。」-感受性の強い年頃の彼女は以来、自分が日蔭の子という劣等感をもつようになった。祖母と折合のつかぬ繁雄は房子を連れて上京、彼女の伯母お絹の経営する“小浜”へ頼って行った。房子は帳場を預ったが日夜目にする社会の裏面に激しい嫌悪を感じた。が彼女は店へ来る客で四十七、八にもなる評論家山岸に惹かれた。山岸も芸者の子であった。房子は、また戦後派的な紙問屋の社員篠崎に好感を持っていたが、彼と逢引して店へ帰ると、お絹から、情夫と行方を昏ましたアプレ芸者政代が男に逃げられ湯河原で自殺未遂の身を保護されているから迎えに行くよう頼まれた。...
神戸で危険な密輸品の取引を終え、東海道線二等に乗込んだ若いギャング矢部四郎は、憂い顔の美しい婦人と隣合せる。彼女の名は相川秋子、富裕なだけで取柄もない夫にあきたらず、家を出てきたのである。彼女はふと言葉を交した矢部の凄惨な逞しさにひかれ、矢部は秋子の清純な印象に胸をときめかせた。友人の許へ寄ると称して秋子は矢部とともに横浜に降りた。--ギャングの本拠ホテルダリアへ帰りついた矢部は、情婦のトシエが親分仙石に無理じいに寝取られていることを知る。彼はトシエと仙石をはげしく憎むが、トシエの執拗な情熱は矢部を放さなかった。彼と秋子とのひそやかな愛情をつきとめるや、彼女は狂気のように矢部の正体を暴露した。夢破れた秋子は、帰郷すべく決意する。が、矢部はもう秋子なしではいられなかった。片腕のダリアの刺青を焼きつぶし、止宿先--ニューグランドホテルの秋子をたずねて...
日劇の踊り子、雪子、エリ子、道子の三人は郊外のアパートの一部屋で共同生活をしながら未来の舞台スターを夢みている。毎日乗るバスの運転手江戸川金一は雪子が好きだが、気が弱いのではっきり云えない。一方、雪子は演出助手の小池を愛している。道子は十歳の時からバレーを習っているが芽が出ず、郷里の許婚駒吉は早く結婚したがっている。大スター熱海春江が、道子に腹を立て、馘にしてしまえと云ったのを聞いたエリ子は、憤慨してタンカを切るが、それがもとになって映画に引きぬかれた。小池が書いた雪子主演の台本「東京祭」は劇場で採用されたが、主役は熱海春江になった。失望した雪子を慰めようと金一、小池と金一を愛している車掌タマ子とがドライヴに雪子を誘った。金一は雪子の恋人が小池だと知るが、夏祭りの音楽会に自分がクラリネットを吹くから唄ってくれと雪子に頼む。給料の賃上げを拒絶され、熱海...
東京から汽車で三時間半、伊豆の山々に囲まれた古い温泉街。新叶家の松美という芸者を母に持つ夏子は四つの時に母に死に別れて以来、新叶家の神岡らくの養女として育てられた。小学校時代「芸者の子」といじめられ、芸者になるのは死ぬ程嫌だと思った夏子も学校を卒業すると小夏と名のって芸者になった。新叶家にはほかに延千代、花勇、若子等の妓がいたが、最近君勇に糸へん筋の旦那がつき、今度は小夏の番である。或る夜造船会社の社長楠見老人のお座敷に急ぐ途中、小夏は小学校時代の担任で今も尊敬している久保先生に会った。小夏とあらぬ疑いをかけられて学校を辞めさせられ、今は楠見さんの会社に就職していたのだ。久保先生は今夜はお前を帰さないぞと小夏に迫るが、強情な小夏は何事もなく別れてきた。が、大好きな先生ともこれで終りかと思うとたまらなくなって、その夜遂に楠見さんに初夜を許した。落籍され...
週刊新潮に連載された柴田錬三郎の「眠狂四郎無頼控」を映画化したもので、川西正純の監督昇進第一回作品。脚色は「美女と液体人間」の木村武(1)に川西正純。撮影は「花の慕情」の飯村正。「旅姿鼠小僧」の鶴田浩二が狂四郎に扮するほか、水野久美木暮実千代花柳喜章らに、川西監督の昇進を祝って、森繁久彌山田五十鈴らが特別出演する。