大阪を中心とする薩長の倒幕軍用金調達運動を妨害するため、幕府は新選組を大阪に送り込む。新選組は、何度も軍用金奪取に失敗。その裏には、曲芸美津次一座に潜り込み、新選組の動向を探っていた黒頭巾の活躍があった……。ニセ黒頭巾の乱行による仇討ち騒動が、サブストーリーとして絡む。
松もとれぬ江戸に連続殺人。殺されたのは歌舞伎役者沢村鶴之丞と吹替え役虎松、いれも赤い矢で胸を射抜かれていた。むっつり右門は、虎松の胸にあった卍蜘蛛の刺青にカギがあると睨む。虎松殺しの現場の荒れ寺から南蛮渡来の金銀細工と下田唐人廟の護符、血のついた手拭が出てきた。一方、あばたの敬四郎は鶴之丞の娘みすずの部屋へ逃げこんだという浪人の探索に躍起。が、右門は、海猫の権十郎という労咳やみの片眼の島抜け人を鶴之丞が殺された日、乾分の伝六が見かけたということから、かの浪人を犯人でないと断定した。浪人が石川弥太郎という名の煙草入れを落していったこともわかった。また例の手拭も権十郎のものと推理された。権十郎を探せ。右門は彼が牢にいることを知った。そしてその胸には卍蜘蛛の刺青。ところが権十郎は牢破り、これを合図に第三の殺人。殺されたのは金貸しの鬼源で胸にはまたも卍蜘珠。...
十二代将軍家慶の頃。四十石の旗本勝小吉は剣に秀れ覇気もある男だったが、太平の世の中では彼の評価も薄く、放蕩無頼の生活で鬱憤を晴らして居たのがたたって三十五歳の若さで隠居を命ぜられた。が、苦しい中にも一子麟太郎だけは江戸随一の剣客島田虎之助の門で修業させて居た。或夜麟太郎から新しい学問、蘭学を勉強したい旨を聞いた小吉は「お前のお袋に楽しい日を送らせてやってくれ」としみじみ云い、女房のお信を泣かせた。一夜明けると昨夜の事はけろりと忘れ、相変らず暴れ廻る小吉はごろつき侍であっても、悪侍小林隼太を懲し、妙見の禰宜や隣家の岡野家を救うという侠気に、江戸庶民の人気は素晴らしかった。その間、麟太郎は虎之助から免許皆伝を得、蘭学を永井青崖から教えられたが、やはり当時の時勢に入れられなかった。その麟太郎がひょんな事から恋をした。相手は炭屋の娘、辰巳芸者の君江で、彼女が...