伊村早吉の家は、自殺者の多い城の内濠の傍にあったので、彼の手で自殺直前を救われた者も多かった。ある晩、早吉は又しても一人の娘を救った。市会議長梅澤の息子に妊娠の身を捨てられた房江だった。同じ夜、また一人の女性が早吉の長男寛一に救われた。一人きりの愛児を失って自暴自棄になったあさ子だった。寛一は新聞記者だったので、房江の事件を知ってこれを新聞紙上にあばいた。次男修二は房江を愛していたので房江をさらし者にしたと怒って彼女を伴って家出してしまった。梅澤はそれを種に房江の相手は修二であるといいふらしたので、寛一は苦境に立ってしまった。やけ酒をあふりに居酒屋へはいって行くとそこに救ってやったあさ子が身を落としているのに出会った。寛一は命を粗末に扱うとあさ子を面罵するが、この時梅澤の一派になぐり倒された。房江の父大島は、梅澤に売収されていたが、この有様を見て憤然...
Motoko Fujikawa works in the Seisen Church as an assistant to pastor Maki Inokichi. Motoko falls in love with Inokichi's virtuous character and devotes herself to the rehabilitation of a delinquent girl, gradually finding her job at the institution more worthwhile than the marriage recommended by her parents. Meanwhile, inside Inokichi's heart a flame of unknowing love for the ...
境道介は竹生島を見に行った時、木谷れい子という若い自殺娘を助けた。れい子をつれて道介は、京都にいる同じ陶工の友人山口の家に厄介になった。翌朝電報で東京から駈けつけた彼女の叔母三浦暁子をみて道介は息をのんだ。数年前、暁子が元大臣の次男三浦清高と婚約が整った日、家族の者と一緒に金山陶雨の展覧会を見に行った際、説明役をしたのが弟子の道介だった。それから父の使いで陶雨の仕事場を訪ねるたびに暁子と道介は親しくなっていった。しかし、それも、暁子の結婚でプッツリと切れてしまった。そんな二人の過去を聞いて、れい子は驚いた。琵琶湖での自殺未遂事件も、実は婚約者の八田が机の上に暁子の写真を飾っていたことにショックを受けての出来事だった。このことから、東京に帰った道介のアトリエに暁子とれい子が屡々訪れるようになり、れい子は琵琶湖で初めて会ってから道介を愛していると語った。...
船場の昆布商浪花屋の一人娘多加は美しい娘だった。その上、浪花屋でのきびしい丁稚奉公に耐えている八田吾平を何くれと慰めてくれるほど心の優しい娘でもあった。吾平はたった三十五銭をにぎりしめて淡路島から大阪へ出てきたのだった。そして、船場の四つ橋のたもとで浪花屋の主人利兵衛に拾われたのである。その吾平がたった一人の肉親である母を亡くした時、多加は吾平と共に悲しんでくれた。お蔭で吾平は熱心に仕事に取り組み、異例の若さで番頭になることが出来た。そんな頃、多加は呉服問屋河島屋の跡取り吉三郎と結婚した。しかし、生来の遊び好きの吉三郎のために多加は苦労しなければならなかった。一方、吾平は番頭以上の商才を示し、主人の利兵街を驚かせるのだった。利兵衛は吾平のために、遠縁の娘千代と結婚させて、暖簾を分けて与えた。吾平の店はますます、順調に伸びていった。また、多加は、相変ら...