若き日の矢野正五郎は、学習院に教鞭をとりつつ、柔道の研究を続けた。唯一の弟子戸田は関屋柔山の道場移転祝いに代理で出席したが、矢野に悪意を持つ泉らのため袋だたきの目に合った。回船問屋島は矢野に道場建設の援助を申出ていたが、孫娘千鶴は戸田に愛情をよせていた。ある日、矢野は泉らの一味に襲われ、やむなく彼等の虚をついて撃退した。これが新聞に悪く書かれ、学習院教師としての責任を問われ、妹須賀子の縁談も相手の清閑寺家から断られた。清閑寺は富豪椿家の娘早苗との政略結婚を進めていた。矢野を慕う早苗は驚いて雨中を彼のもとへ馳けつけたが、そのため胸の病を悪化させ、大磯の別荘で静養した。矢野は箱根山中で天誅党と名乗る邪悪な柔術家井沢周蔵の一行に会い、その中の鬼石佐平に狙われたが、危く難をかわした。その帰途、矢野は大磯に早苗を訪ね、余命いくばくもない彼女から愛の告白をうけた...
赤線の灯は消えたか--荒木信子は吉原をやめて、もう二度と男にふれまいと思った。彼女は夫に先立たれ、中風の義母のために仕送りを続けてきたが、売春禁止法の施行の前に死なれていた。が、彼女は白線の女島子の誘いに乗せられ、通称ヤッパのジョーの手に捕まった。更生しようと思っていた矢先である。信子は彼から逃げだし、やっとの思いで町工場に住みこんだが、ここの主人にいどまれ、また逃げ出す。お霜婆さんの屋台店を手伝い、少しは落着いたが、ジョーが現れ彼女を追着回す。お霜婆さんが不意に死に、後を継げそうになったが、それもジョーのために駄目になった。屋台で昔の同僚葉室ヒデにあった。彼女は旅館を経営する父母の死後、家出しお定まりの吉原入りとなったのだ。もとの旅館の板前宗吉が上京してきた。彼と結婚するはずだったが、隣家の売春婦とのケンカで吉原のことがバレた。宗吉には大きなシ...
平山オートショウ一座の紅一点、男勝りの妙技を示す花形野崎千恵は生れついてのオートバイ好きだが、いつしか同じ一座の花形スター佐々大二郎に心を寄せる様になっていた。東海道巡業のショーの一行が設営を開始した時、挨拶を無視したショー一行に対するいやがらせに、地元のテストドライバー達が重油をあたりにまき散らして走り去った。怒った大二郎は、オートバイで彼等を追跡し田島ドライバークラブに近づくや、正面ガラス張りの大扉をすれすれにかすめて同じく重油を叩きつけていった。折しもそこに居合わせていたオートバイ製作所の浜村社長は、大二郎の放れ業に感心し、直ちに彼を追って親しく自分の工場を案内した。田島ドライバークラブは暴力で一切を支配する悪人達の集りで、浜村も又少からぬ迷惑を受けていたのだ。彼は娘の紀子とその弟の清少年を大二郎に紹介した。愈々ショーが開始されたが、最大の呼び...
輸出向けの新車を製作中のホンダモータースに働く堺和男には商業デザイナーの晶子という姉があった。その晶子が奇しくもホンダモータースが募集した海外宣伝ポスターに一等当選した。賞金は十万円、和男の喜びも大きかったが、彼に好意を寄せる厚生課の本田洋子も一緒に喜んでくれた。この洋子、実は社長令嬢ながら一社員として厚生拡充に力を入れているという変り種である。一方、晶子も入選の喜びを分ちたい唯一の男性があった。同僚の野中良介である。二人は次の日曜日、良介の家でお祝いをすることを約束した。その日曜日、良介は晶子を待った。が、晶子は同じころ洋子の父本田社長の招きで入選祝賀会に出席していた。晶子は良介のことを気にしつつも祝賀会の雰囲気を壊すわけに行かなかった。祝賀会には金山という男も出席していた。本田社長は金山を洋子の許婚と紹介した。一瞬、和男は愕然としたが、その後...
明治の末年。仙石伯爵の令嬢真理子の馬車を襲った三人の博徒を、通りかかった紘道館四段杉龍太郎は物の見事に投飛した。この時から二人の間には恋が芽生えたが、彼女は金のため東小路との縁談を強制されていた。杉は父が博徒に殺された事から、彼等を見れば片っぱしから叩きつけていたが、そのため紘道館を破門されてしまった。然し棟梁銀作は、彼を引取って、仕事場に畳をしいて道場を作ってやった。益田組の社長英五郎と、その輩下の親分甚造は杉に再三悪事の邪魔をされたので唐手の八段美奈島をさしむけて他流仕合を挑んだ。二人は裏の原っぱで相対し、杉の隅返し見事に決って美奈島は倒れた。銀作の娘おせいは杉に心をひかれ、そのため彼女を想う大工長五郎の恨みを買った。そこで彼はここを出て外交官志望の親友大道寺のやっている煮込み屋の屋台で共に働くことになった。そこを甚造一派のやくざ者と美奈島に囲ま...
東洋貿易株式会社の一青年課長桜井大伍は、彼を結婚相手の第一候補と心ひそかに決めている山吹桃子とデスクを並べていたが、同課の宗田がエレベーターガールの杏子に恋をし、橋渡しを頼まれた大伍が、エレベーターの中で杏子にかけ合うのに、桃子はやきもきさせられるのだった。アブレ社員の北村も同課の信子と目下進行中であったが、大伍のお人好しにつけこんで、妹の上京と偽って、大伍のアパートを一晩かり、止むを得ず宿直室に止まった大伍はその夜会社に忍びこんだ泥棒を捕らえたが、翌朝早く大伍のアパートを訪れた桃子が、出てきた信子に驚いて、二人の仲はこじれてしまった。ちょうどその頃夫のへそくりに怒った宮田課長の細君康子は、遂に愛児と共に家出したが、大伍と桃子との私情を超越した協力によって元の鞘に戻った。課長夫妻は今度は大伍と桃子を結ぶ責任を感じた。秋はハイキングシーズン、一泊旅行に...