関東松文字組の組長松山大三を刺殺した罪で18年の刑期を終えた巴組親分平戸寅次郎は、仁義を切る為に松文字組を訪れた。しかし、そこにかつての松文字組の姿はなく、大三の長男良多がもとの巴組の舎弟で現在、難波田組を襲名している吉野の乾分になり、次男健次はサラリーマンに、三男三郎は音楽学校に通っていることを知り、世の移りかわりの激しさに驚くのだった。
明治の末年。仙石伯爵の令嬢真理子の馬車を襲った三人の博徒を、通りかかった紘道館四段杉龍太郎は物の見事に投飛した。この時から二人の間には恋が芽生えたが、彼女は金のため東小路との縁談を強制されていた。杉は父が博徒に殺された事から、彼等を見れば片っぱしから叩きつけていたが、そのため紘道館を破門されてしまった。然し棟梁銀作は、彼を引取って、仕事場に畳をしいて道場を作ってやった。益田組の社長英五郎と、その輩下の親分甚造は杉に再三悪事の邪魔をされたので唐手の八段美奈島をさしむけて他流仕合を挑んだ。二人は裏の原っぱで相対し、杉の隅返し見事に決って美奈島は倒れた。銀作の娘おせいは杉に心をひかれ、そのため彼女を想う大工長五郎の恨みを買った。そこで彼はここを出て外交官志望の親友大道寺のやっている煮込み屋の屋台で共に働くことになった。そこを甚造一派のやくざ者と美奈島に囲ま...
五年振りにムショを出た口笛のジョージこと、原田譲二は、昔のシマ横浜へ戻って来た。が、かっての組は潰れ、兄貴分の鉄や弟分の辰は新興勢力の張三元の下で動く身だった。一人になっても、組を盛りかえそうと譲二も懸命になったが、新興勢力の前にはどうする事も出来なかった。そんな時、波止場でグレン隊に襲われていた盲目の少女由比子を救った。身寄りのない、この清純な少女にヤクザの譲二は強くひかれていった。そして、由比子の眼の手術費のために、今は張三元の仕事を引受ける決意をした。手術の日まで二人の心をしっかりと結ぶために、二人は時計を交換したが時悪く譲二達の舟が巡視艇に見つかり、矢田部刑事を射ちそこなった譲二は、仲間を裏切ったと海へ投げられた。丁度その頃、由比子の手術は成功していた。それから二カ月、譲二は運送会社の社長に助けられて、運転手となっていた。一方の由比子も矢田部...
トラック運転手の哲夫は、深夜の運転中、東京へ行く田舎娘芳江を同乗させ、林の中で犯した。数日後、ホールでズベ公春子と踊っていた哲夫はチンピラにからまれ、相手を叩きのめした。これを土地のヤクザ健と桜井が見ていた。翌日、哲夫はトラックで製品を運ぶ途中、チンピラに襲われた。この事件で哲夫はクビになった。健に声をかけられ、彼のもとで働くことになった。健の親分大西は柳田建設の社員で、会社の乗っとりを策していた。大西は幹部の黒川を殺すよう健に命じた。哲夫は芳江の居所をさがしあてた。お詑びのしるしにと札束を渡した。芳江の態度は冷たかったが、哲夫の一途な気持は次第に芳江にも通じた。--社長の柳田は黒川の死に疑いをもった。大西の情婦陽子に泥をはかせようとしたが、口を割らなかった。大西は健と哲夫に柳田を殺すことを命じた。哲夫がスパナーをふりおろした。翌日、哲夫は悪夢を忘れ...
毎朝新聞の事件記者石川汎はある日一人の婦人を見て首をかしげた。その婦人は三年前、社の交換手をしていた高橋朝子だった。彼女は小谷茂雄と結婚しているが、交換手時代ふとした事から殺人犯人の声を聞いてしまった。いまだにその不気味な声が耳について離れず、悩まされていた。彼女の夫茂夫は小心者で、大東京広告社で浜崎社長の部下として働いていた。ある日得意先を招待し、茂雄の家で麻雀をすることになった。薬局の川井、ビリヤード屋の村岡が客である。浜崎の来るのが遅いので、朝子は電話をかけた。電話口からもれて来た声--彼女は例の不気味な声に余りにも酷似した彼の声に慄然とした。三年前の事件を報ずる新聞の、「質屋殺人事件、殺人現場から犯人の声、深夜、偶然に聞いた電話交換手」……などの見出しが甦って来た。数日後、茂雄が浜崎と喧嘩をして血だらけで帰って来た。しかも浜崎は郊外で死体...