文華女子学園に通う尾崎ひろみは、ある日、友達と大磯のロングビーチへ遊びに行った。プールサイドであやまって中年の美しい婦人を突き落してしまった。ひろみは素直にあやまった。中年の婦人は、銀座のバー“ポルモス”のマダム弓子で、同行の紳士は銀座に洋品店をもつ河瀬だった。帰り、ひろみは河瀬と銀座へ出て、“ポルモス”を訪れた。そこに来合わせていたノンプロ野球の花形選手近藤とドドンパを踊ったりした。夜遅く帰宅した彼女は父の健介に叱られたが、姉の伊久子が仲に入ってくれた。翌日の夕方、多摩川べりを散歩していたひろみは、虫とりをしている青年を手伝った。権次郎という学生で、夜店で虫を売るアルバイトをしているという。ひろみは、それから夜店の手伝いもするようになった。ある日、ひろみは近藤の出ている試合を見にいき、その帰り、彼と外苑をドライブし、唇を盗まれた。翌日、彼女は学校や...
立花冴子は母と二人暮しの高校三年生だ。お茶目だがどことなく淋しがりやの冴子は、テニスの選手として国体に出場する程のスポーツマンでもあった。母の戸志子は冴子の亡き父博之とのつかの間の幸福を支えとして、冴子の成長を楽しみにしていた。戸志子は、冴子の配偶者として、船員の坪田弘二を選んだ。冴子も弘二に好意を奇せ、全てが順調に行くかに見えたが、十八年間未亡人の節操をもってゆるがなかった戸志子の心に、弘二の若々しさは、大きな刺激であった。弘二と母の関係を知った冴子の驚きと、絶望は深かった。父の親友、佐上要三に諭されて、漸く家に帰ったものの、冴子は戸志子を責めた。弘二にとっても、戸志子との関係は今更のように悔まれた。弘二の乗る船、甲陽丸の出帆する夜、冴子の部屋に忍びこんだ弘二は、冴子に挑みかかった。一度ははねつけたものの、母と弘二の関係が甦った時、冴子は弘二を受け...