山口県警本部の岩佐忍刑事が突然辞職した理由を知っているのは、県警当局の限られた同僚だけだった。五年前、あるホテルで殺人事件が起きた。目撃者がいたが、意外にもそれは前日新婚旅行に出かけたばかりの岩佐の妹昌子と夫の望月だった。二人は犯人から「密告するとバラす」と脅迫され恐怖におののいていたが、岩佐は説得して証言させ、犯人である志田と浅見を逮捕した。だがそれ以来、不気味な男の影が妹夫婦を怯えさせ、妹の苦悩を見るたびに岩佐は心を痛めた。そして、浅見は本当にお礼参りをする気かも知れない。いや、必ず復讐するに違いないと思った。主犯志田の出獄が決まった日、岩佐は妹夫婦を守るため辞職願いを提出した。岩佐はその足で、妹夫婦が住んでいる徳山市の公団アパートに行った。一方、県警本部も志田の復讐を厳重に警戒し、アパートの監視や護衛に刑事を動員して万全を期していた。志田が...