サンドウィッチマンのバクさんは、本名谷中禄太郎、生来のお人好しで近隣の人たちに親まれていた。喫茶店の看板娘よし江はキャバレーオリオンの支配人倉石道太の恋人。焼鳥屋の源さんはバクさんがいつもおかずを買う馴染の店。バクさんの向いの二階には踊子春子が住んでいる。バクさんは春子にたのまれ、よし江のお父さん多平とストリップ劇場のサクラをつとめて、美事に失敗。キャバレーではマダムの寺島聖子が客に愛嬌をふりまいているが、倉石は昔の悪い仲間から、喫茶店と焼鳥屋を立退かせろとおどかされて憂欝。バクさんの家へは掻払いのくせに純情な娘由美がころげ込んだり、捨児を背負い込んだりで、生活がいささか複雑化してきた。競輪好きの多平が立退料の手附金を受取つて使い込んだので、喫茶店と焼鳥屋は強制立退の危機にさらされるが、マダム聖子から金を借りて倉石がこれを救った。そのため彼はやくざ...
横浜港に日本女性の密輸という国際的売春組織を証拠だてる事件が発生。港内海面と外航船の船倉から発見された若い女の死体に、多数の男による暴行の形跡が見られた。海上保安庁と水上署は、秘密裡に調査を進める。そんなある日、サンパン回天丸の船頭恒次郎、通称船長の許に、北海道から一人娘の志保子が来るという電報。我が家のない彼は喜びつつも頭が痛い。だが赤線を経営するボス桂馬の角の口ききで、新山下町の裏街に水入らずの家を持つ。親娘はある時、波止場で昏倒していた船員風の男明を救う。彼は以前、縄張り争いで元町の文六に殴り込みをかけられた角をかばったため、文六一味に仕返しを受けたのだった。恒次郎の船で使ってほしいと申出た明は、二人の家に住込む。やがて明は、彼の度胸に惚れこんでいる角の子分グリーンペイの周の手引で角の許に同行、駐留軍物資を襲う海賊と身分を明かし、子分になると誓...
解説
「春色お伝の方 江戸城炎上」の阿部豊が製作監督する敗戦裏面史で、脚本は「母の秘密」の館岡謙之助が執筆。撮影は「黒い潮」の横山実の担当である。出演者は「鞍馬天狗と勝海舟」の早川雪洲、「東尋坊の鬼」の藤田進、「鶴亀先生」の斎藤達雄、「黒い潮」の山村聡、「鉄火奉行」の柳永二郎、「トランブーラン 月の光」の沼田曜一、小笠原弘、「関八州勢揃い」の舟橋元など。
ストーリー
昭和二十年五月、サイパン、硫黄島、比島等に日本の敗色は濃く、東京も再度の大空襲に火の海と化した。だが陸軍省部内では、依然として、本土決戦を目指して張切る将校達の姿があった。やがて沖縄守備軍も全滅し、米軍も本土に迫ってきたが、米英ソのポツダム会談により、七月二十七日、日本に対する最終の降伏条件を規定した三国共同宣言を放送して来た。首相官邸の会議室では、総理以下の閣僚達は、共同宣言を有条件...
昭和十年八月十二日。福山から台湾に転出を命ぜられていた相沢中佐は、赴任の途中、陸軍省に立ち寄り、軍務局長永田鉄山を一刀のもとに斬殺した。意外にも犯人には毫も罪の意識がなく、兇行直後、平然と任地に出発しようとして傍人を愕かした。それも理わり、永田少将は満洲事変によってふくれあがった日本陸軍の規模をそのまま対支対ソ戦に切換えるべく財閥と結んで国家総動員体制を企図したいわゆる統制派の中心人物であり、これに対して資本主義による農漁村の疲弊に憤り、腐敗した財界、政界、軍閥を倒して天皇親政の国家改造を断行しようとする皇道派の、相沢はもっとも純粋な分子だった。果然、「相沢につづけ」の合言葉が皇道派青年将校のうちに湧きあがった。これら直接行動派の急尖鋒は、歩一の栗原中尉、それを時機至らずとして抑えているのは同じ歩一の山口大尉、そして民間の志士北一輝、西田税らであるが...