白百合観光の女社長花園ゆめみは、極東観光の大黒社長から“鹿児島の旅館薩摩荘が、契約を極東に切替えた”からそのつもりでと聞かされて、調査のため鹿児島に向った。女中志顔を装って薩摩荘を訪れたゆめみは、週刊タイムリーの記者立神修平と、時を同じくして薩摩荘に住むことになった。薩摩荘の娘咲子から、今の若主人信太郎は、亡き姉光子が東京に遺した恋人だが、自分も信太郎に想いを寄せていると聞いたゆめみは、彼が唄が好きなのにことよせて近づき、咲子との結婚をすすめた。一方、修平は、信太郎がもと新潟の場末を流していた艶歌師で、薩摩荘を乗っとろうとしているという情報を掴んで密かに探索を進めていた。しかし彼が来てからの薩摩荘の経営は面目一新の感があり、旅館業組合の理事就任を望む声も高くなっているのが不思議だった。おはら祭が近づいた頃、薩摩荘を訪れた大黒は、離れに信太郎を伴って、...
興奮のるつぼと化している競馬場の群衆の中から、サッと一条の光線が走った。ちょうどその時、スタンドの屋上から一人の娘がもんどりうって落ちて来た。たまま居合せた伊豆丸博士の手で自殺と断定されたが……。これも偶然この事件を目撃した御存知多羅尾伴内は深い疑問をもった。死んだ雪江は騎手市田の恋人であったが、かつては伊豆丸博士夫人篤子の弟譲吉の女であったのだ。伴内は、雪江の勤め先キャバレーインパールに行き、...
石川達三の同名小説を猪俣勝人が脚色し千葉泰樹が監督。現代社会に絶望したサラリーマンが、異常な精神で悪徳の世界に溺れていく様を描く。
東亜製鋼に勤務する中根は、妻と生まれたばかりの娘と暮らす平凡なサラリーマンだった。しかし裏では密かに他人を操ることに楽しみを見出しており、一緒に競馬に行った同僚から金をくすねたりしていた。中根はかつて事務員の康代と結ばれたことがあったが、彼女が同僚と結婚することを知り、昔の関係をネタに彼女を陥れようと考える。しかし康代は中根に手切れ金を渡し事なきを得た。中根は大家の未亡人や同僚の妻を次々にものにしていく。だが自分の妻がブローカーと接近していることを知り、中根は嫉妬の炎を激しく燃やすのだった。
とあるアパートの一室で、殺人事件が起こった。被害者は、坂井久子という電話交換嬢。株券も通帳も手をつけずに置かれてある。聞きこみをするうち、被害者は株券を買いこんでいたこと、同じビルに勤めている須貝という男と交際中であったこと、医大の生理学教室で博士研究をしている男とも付き合いがあったことがわかった。また、無記名投資信託も相当額もっており、犯人はそれを狙ったのだ。被害者は、証券サービスステーションの小柳に、内輪話をもらしていた。結婚相談所で生理学教室員の婚約者を見つけて喜んでいたという話だ。生理学教室員に的を絞って捜査を進め、利用した結婚相談所が明らかになった。そこで被害者が紹介された男は、池原清。被害者の親友光江は、池原の写真を見せられて驚いた。光江は池原と交際があったのだ。池原は当時、被害者久子との交際を光江に乗りかえていたのだった。さらに池原は...
ここ一〇一航空団基地に集結した第一期操縦幹部候補生の中田、西田、佐藤らは、ラバウル航空隊生き残りの名パイロット小谷二佐隊長の指揮のもとに猛訓練を開始した。やがて三尉に任官して、待望の飛行訓練を迎えたある日、故郷の手紙を喜ぶ隊員の中で、一人中田は浮かぬ顔をしていた。長男を飛行機で戦死させた父の反対を押し切って志望した中田を励げますのは、幼馴染みの礼子だけであった。待望のF86Fの訓練も大詰めになり、...