辺鄙な山奥の鉱泉旅館河田屋には、三十一歳になる独身の女主人ゆきと女中おいくの二人しかいない。ある日、ゆきが猪撃ちから戻ると珍しく泊り客がたてこんでいて、ゆきに縁談を持って来た伯母おたみなど相手にされない忙しさ。泊り客というのは、到着早々シャベルを担いで出かける北原、都築の二人組、作家と自称する藤堂とお供の島崎、三人だけの旅役者一座、妙に沈んだ若い矢沢夫婦、それに地方回りの化粧品宣伝嬢椎名ひとみと山本晴子たちで、ゆきとおいくだけでは到底手が足りないとみて、ひとみは気さくに手伝ってやるのだった。その夜、トランクを提げた藤堂と島崎が闇に消えたのと入れちがいに、ミシンのセールスマン橋本と三人の学生が着いた。橋本は恋人のひとみを追って来たらしい。翌朝、駐在の尾関巡査が来て矢沢夫婦の保護願いが出ていると告げるが、その頃当の心中未遂夫婦は滝の近くで金塊入りのトラン...
はやての藤太郎と松川の半次郎はお神酒徳利と呼ばれる程仲が良かった。半次郎は茶屋扇屋の看板娘おせんに惚れ、茶屋はたごのたばね丹熊に追われたが、藤太郎は金を出して片をつけた。女と一諸に故郷へ帰りかたぎになれと藤太郎は半次郎との兄弟の縁を切ったが、おせんの心は藤太郎にあった。半次郎はやけになり、岩村の清五郎の家に草鞋を脱ぎ、藤太郎はその喧嘩相手の家に草鞋を脱いで了った。喧嘩場で藤太郎は清五郎を斬ったが突然背後から斬りつけられ、それと知らずに半次郎を倒して了った。半次郎は故郷信州高遠にいる盲目の母おのぶと妹おたかの身を頼んで死んだ。おせんは高遠へ向う藤太郎を追ったが彼は冷たく、同情したどろんの金介がおせんの道連れになった。高遠の町の紺屋松川屋を訪れた藤太郎は、おたかに一切を打ちあけたが、おたかは兄の帰りを待ちわびる母の為に藤太郎に兄の身代りとなる様に頼んだ。...
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知らずの弥太郎
1954年6月20日公開,82分
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加藤友一(澤村國太郎の本名)と菅沼完二のオリジナル共同脚本を、「醉いどれ二刀流」の森一生が監督している...
南国の漁場。茶屋女おもんは土地の親分古座の権太郎に強引に根引されようとし、乾分達に追われているのを、明神の半太郎に救われた。半太郎は古座一家と川尻一家の漁場の縄張争いの仲裁に、白狐の音松、桶屋の三吉と一緒に古座にやって来たのだ。権太郎は三人におもんを女房だと紹介したが、川尻との協定破りがバレる事を怖れ、その夜ひそかに乾分を川尻へ喧嘩を吹きかけにやった。事情を知らぬ半太郎達は川尻の無法な喧嘩を怒り、音松はこれをなじりに川尻へ出掛けたが、途中古座の乾分松と捨八の欺し討にあう。これを目撃した川尻の親分倉造の娘おちせは急を告げに家へ帰ると、倉造は古座一家に非があるとは云え男の約束を乾分が破った償いに自殺していた。権太郎はこの度の働きに半太郎に望みのものをやると云ったが、半太郎は言下におもんが欲しいと云い、おもんを嬉しがらせた。音松の死骸が発見され、川尻に掛合...
名優嵐粂三郎の御曹子としてしつけられ、今は売出しの若手嵐粂吉は、父にも秘めた恋人--深川芸者の満津次がある。急にもち上った某藩留守居役日下部伊織の身請話で、家をぬけだした彼女が粂吉と相談中、その船宿へ不意にのりこんできた日下部一味との争いとなり、二階から水中におちた日下部がてっきり死んだものと粂吉は早呑込み。満津次ともども駆落ちした。二人は忽ちつかまったが、粂吉は岸壁から海へ転落したまま消息を絶つ。以来三年。--東海道の宿場宿場を、女を尋ねまわる旅渡世の男、その名も疾風の粂と変わる粂吉の姿である。その彼を嵐粂吉そっくりね、と岡惚れして追っかけまわすのは江戸生れのお政、迷惑がって彼が足をはやめる折しも、土地の顔役黒馬の庄五郎が生娘お光にからむのを目にして、さんざん打ちすえる。お光の叔母お倉に彼女を府中の親許鱗屋まで届けてくれと頼まれて、事の行がかり上こ...